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第二句集『満月へハイヒール』(2002年~2004年)

 投稿者:きっこ  投稿日:2011年 1月17日(月)14時17分8秒
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  第二句集『満月へハイヒール』203句(2002年~2004年)

目次
     狐の面          44句

     仏足石          50句

     満月へハイヒール       50句

     10番ピン         39句

     母の手          20句



     狐の面 44句

けふよりは春の炬燵と呼ばれけり

猫板に猫の爪跡ふきのたう

煎餅に前歯を立てて春の山

手の中に志あり松の花

春の山間口の広き母屋より

長椅子のはみ出してゐる日永かな


ものの芽のつつつつつつと連なれり

文鎮をすこしずらしてさへづれる

囀りや沈殿したる梅昆布茶

裏ドラの二枚乗りたる百千鳥

水槽と言ふ春水の直方体

スニーカー干すや紐より春の水

薄氷を分けて小銭を洗ひけり


うすらひをひきずつてくる舫ひ綱

シーサーの睦み合ひたる梅の空

三回も犬の交尾を見てしまふ

春雷や煙草の箱に駱駝の絵

ふらここに狐の面を飛ばしけり

淡月の淡きうさぎと淡き臼

非常口開けて春月真正面


菜の花のなかへ遊びに行つたきり

草餅の伸びれば緑うすくなる

アインシュタイン舌出してゐるバレンタイン

初恋のひとにうつされ春の風邪

猫の日の雨がにやんにやん降つて来し

牛丼の消えて建国記念の日


ごんずゐのかたまつてゐる悪だくみ

恋猫の髭に巻きぐせありにけり

抱きしめて猫の恋路の邪魔をする

春月やスープの底の牛テール

古古米も古古古古米も事始

啓蟄や寄せて上げたる我が乳房

啓蟄を勝負下着で出でゆけり


石蕗や猫の乳首は毛に埋もれ

子雀のふくらんでゐる親孝行

春の雲ちよつと崩れてまた戻る

風つよき八百屋お七の忌となりぬ

夜桜の湿りのなかにゐるあたし

初虹や小鳥を巡る給水船

実演販売春大根を真二つ


シベリアンハスキーずんずん花菜畑

黒猫を春の土よりひつこ抜く

すこしづつしあはせになるしやぼん玉

くるくると春の炬燵の足を抜く



     仏足石 50句


黒猫の連なつてくる立夏かな

ケチャップのぶばと噴き出すこどもの日

黒南風や土間の高きに火伏神

黒南風やミルク渦巻くタイカレー

夜遊びのミュールぱたぱた走梅雨

梅雨きのこ恋の隙間を埋めてゐる


あまがへる仏足石の凹みへぴよん

対岸の団地真白き送り梅雨

青鷺や消波ブロックてふ憩

鯔ばかり釣れたる七日山瀬かな

煌々として梅雨寒の手術室

夏蝶の飛んで全身麻酔かな


怖いよう母さんはどこ黒揚羽

短夜や悲鳴を上げてゐる子宮

夏の夜の子宮筋腫を産み落とす

麻酔より醒めて五月の浜辺かな

たましひもからだもひとつ水中花

かわほりにをとこの数をかぞへをり

病窓の小さき聖母や青葉潮


鮎掛けて釣師の見せる金歯かな

川風に今年の鮎はまあまあと

をぢさんと風待月をまろびけり

三伏の川面に紅を塗りなほす

そらいろとみづいろのあひ泳ぎけり

饐飯や沖に航空母艦の灯


もうビキニ着れぬ体となりにけり

鮎釣へ近づいてゆくミュールかな

ピンヒール諦め脱ぐや夏蓬

鮎釣におほきく撓む送電線

鮎釣の胸を分けゆく流れかな

夕風の瀬を速めたる囮かな

瀬がはりや釣師は竿を立てしまま


すれちがふ香水すべて言ひ当てる

素麺のからんからんと来たりけり

島唄に涼しき足の運びかな

水中花素顔見られてしまひけり

次々と軍手干しゆく日焼の手

径やをら険しきほたるぶくろかな

五と口で吾と悟るや仏法僧


とうすみのちぎれるほどに交みけり

瓜蝿が瓜蝿を呼ぶ雨催

緋目高のことが気になる黒目高

猫飯に蟻蟻蟻蟻蟻蟻蝿

はんざきの石を抱きたる流れかな

茹でたてのペンネくるくる蝸牛

蜘蛛の囲やショートホープを根元まで


うすばかげろふ J J に不時着す

ぼんやりと俳句作つてゐる毛虫

御器噛だけは写生ができませぬ

扇風機うちひしがれてをりにけり



     満月へハイヒール 50句


雨音の中に目覚むや敗戦日

霖の真中にをるやネクタリン ※霖(ながあめ)

白桃やタイヤの音は波の音

ブラジャーを部屋に干したる敗戦日

風呂釜のごぼと八月十五日

敗戦忌チワワチワワのあとを追ひ


終戦日空を見上げてゐるパンダ

足抜いて輪切りにされる茄子の馬

ゆふぐれのあさがほといふ脱力感

終戦日猫に尻尾のなかりけり

力草空港島を囲みけり

犬蓼のぶるりと昨夜の雨払ふ


犬蓼に大犬蓼の被さりぬ

颱風は林檎落として行つたまま

色鳥やダブルベッドをもて余し

草の実や猫とおんなじ朝ごはん

金策に走る紫式部かな

ひるがほや下校チャイムに納竿す

曼珠沙華漫画喫茶を包囲せよ


吊革はレゲエのリズム頭高

秋空に畳鰯を焦がしけり

梵と鳴る柱時計やロザリオ祭  ※梵(ぼろ)

腕時計御所水引の中に落つ

木の実落つインスピレーション冴えてくる

干柿の下に干しある柿の皮

紅玉を磨いた袖で鼻を拭く


生身魂月の輪熊を捌きけり

たらたらと手繰り寄せるや落花生

天窓に猫のあしあと秋収

カラオケを出てつづれさせつづれさせ

茶柱を立てて燕の帰りけり

連休のランゲルハンス島も秋


秋深しコントラバスは森の音

愛情を噛みしめてゐる林檎かな

憎悪てふ闇よ吹かるる鬼の子よ

月白や首の短き雁之介

恋人を川に流して月を待つ

目薬の海に溺れて十三夜

月の舟ゆらせる乙女心かな


昔レイプされた空地や望の月

ブルースの蛇行してゆく月夜かな

満月へフィアットパンダ横づけす

真つ黒な烏賊の沖漬け月渡る

肉じやがのほくと崩るる良夜かな

逆上がりしてハイヒール満月へ

月光へ匍匐前進してをりぬ


月面をくるりとまはすウォッカかな

盥には昨夜の雨水や月の庭

月光にゴム手袋が干してある

回廊をさまよふ月となりにけり



     10番ピン 39句


10番ピン残して冬に入りけり

冬晴や沖に根を張る貨物船

日出鯔ごつんごつんとのぼりくる

猫の毛に寒冷前線張り出せり

セーターをぱちぱち進む頭かな

北窓を塞ぐ猫用ドア開ける


クロネコがボジョレーヌーボー届けをり

蛾の骸掃きて聖樹を立てにけり

人人人聖樹人人鴉人

もの言へぬことの切なさ雪うさぎ

雪囲突き出す物干竿の先

灰猫を白ブラウスで抱く勇気

肉球のわが腹をゆく霜夜かな


深々と猫に礼して夜鷹蕎麦

毛糸編む猫の鼾のぶぶぶぶぶ

羊水のたぷんと揺れて寒昴

野良猫を呼び集めたる避寒かな

右足に湯たんぽ左足に猫

忘年会猫じや猫じやと踊りけり

猫にあらほぐす俎始かな


押鮎や竹の香のする竹の箸

繭玉の枝垂れて暗き薦被

羊羹に粘る刃先も二日かな

人日のファーブル昆虫記を枕

骰子が茶碗こぼれて初閻魔

沸々と一月十一日の鍋


雪隠にTOTOの刻印寒稽古

筆先に墨の吃線ふゆざくら

猫飯に雪降つてゐる世田谷区

寒雷のどすんと落ちて石寒太

ひたすらに写生をせよと冬の雷

寒椿こころの揺れのおさまらず

胸中へ冬の弓張月堕つる


冬萌や紅茶に溶ける鳩サブレ

探梅にしてはものものしき装備

泣顔のほどけてきたる実南天

冬晴に焼きおにぎりのあちちちち

ガードルにお尻詰め込む春隣

ステルスの見えない翼冬晴るる



     母の手 20句


初雀母の窓辺に来たりけり

母さんと寝初泣初笑初

野良猫のずずずずずずい御慶とな

初東風や目つむる猫の富士額

母さんへふくらんでゆくお餅かな

座布団に猪鹿蝶やお正月


初空の端つこにゐるお母さん

母の手に母の手ざはり初詣

母さんと昔を遊ぶ初湯かな

初風呂の目の前をゆくおちんちん

高きより母を打つ湯や火焚鳥

鳥のこゑ間のびしてゆく恵方かな


梳初の母のうなじのはんなりと

靴下の穴にペディキュア棚浚

母の手と重なる恋の歌留多かな

よく眠る母へ冬日の届きをり

人日の蛇口に固きゴムホース

まんさくやゆつくりと雲ほぐれゆく

冬をゆく川はも母の姿はも


鯉の背の寒九の水を帰りけり
 
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